文部科学省委嘱研究 日本初等理科教育研究会の「学校における望ましい動物飼育のあり方」のうさぎの記述についてうさぎを飼っているものとして疑問点を書いていきます。青字が上記の資料の抜粋(一部の図は画像処理しているので黒字)私の疑問点が赤字です。

全体を通して愛情と責任を持って育てるという視点が薄いように感じました。

 

 また、「先生のすべてが動物への愛情・知識・関心があり、児童に動物愛護の精神や適切な飼育を教育することができる」という暗黙の前提が間違えているではないでしょうか。もし前提が正しいならば、私の関わった学校を含め多くの学校で虐待が行われていることに説明が付きません。

 

 この内容を守っても学校飼育の場でうさぎが快適に過ごせるのか疑問です。 

13p

【ウサギの飼育にあたって】

○ウサギは繁殖性が高いため、雄と雌を一緒に飼うと子がどんどん増えるため基本的には仕切りを設け、雄と雌を分けて飼う。

○雄同士はせまいところに入れていると激しくけんかをするので、雄は去勢手術を実施するとよい。

「去勢手術」云々の前に一羽ずつのスペースが確保できないならば複数を飼わなければいいのではないでしょうか。

これができない場合は、十分なスペースをとるか1羽ずつ別々に飼育する。

「十分なスペース」とは具体的にどのくらいでしょうか?

学校の予算でできるのでしょうか?

○ウサギは怖がりなので、おどろかさないようにその扱い方には十分注意する必要がある。

○ウサギ(アナウサギ)は土に穴を掘るので、脱走に注意する。

○寿命は大体5~7年くらいである。

○ウサギが原因不明で死んだ場合には、必ず地域の獣医師に連絡を取るようにする。

1 習 性

①成熟するにつれて、特に雄はなわばりを確保するために他の雄と争う。

②暑さに弱く、夏には十分な注意が必要であり、水分を十分与え、日陰で飼うようにする。

屋外では日陰で飼うだけでは不十分です。

具体的な温度の記述がありません。

③保温に注意し、特に子ウサギの場合、夜は暖かいところに置く。

学校の飼育で夜の管理は誰がするのでしょうか。

④たいへん臆病である。

⑤地中に穴を掘って巣を作る。

⑥夜行性なので昼間は十分に休ませる必要がある。

⑦硬軟両方のふんをし、全量の約80 %は硬ふんである。クリーム状の軟ふんだけを食べ

(食ふん)、球状の硬ふんとして排出される。

 あまりに狭すぎます。

 うさぎを飼ったことがある人はうさぎが嬉しそうに走ったり跳ねたりする姿を見たことがあるはずです。これを書かれた方はうさぎ飼いの経験がないか家畜として飼っていたのかもしれません。

 また、足元の床材がすべて金網というのはうさぎの足に負担がかかります。ある獣医さんのブログで「金網の床材は不適切である」という記述がありました。

〔複数飼育の場合〕

飼育頭数が適度の場合は、ウサギは排便場所を決めて他の部分は汚さずに生活をする。

もし、床中にふんが散らばっていたら、頭数が多すぎるか、部屋が狭すぎる可能性が高い。

この場合ウサギ同士の争いも生じやすくなる。ウサギは鋭い歯を持つので、集団のまま放置しておくことは避ける。

特に雄は闘争性が高いので去勢手術もしくは単独飼育をするか、あるいは隔離できるようにいくつかケージを用意しておくとよい。

 狭いケージにいつまで隔離するのでしょうか?前述のとおり始めから複数飼わなければいいだけです。

 飼う前にうさぎのことを学習していない無責任飼育だと感じます。

飼育舎の床が土の場合は、土台を60㎝の深さまで埋め、土の下に石を敷いて逃亡を防ぐようにする。しかし、土は衛生上の管理が困難なため、防水コンクリートの床が望ましい。

複数飼いの飼育舎と書いていながら仕切りがありません。

「複数で飼ってみて喧嘩したので対策する。」ではなくはじめから一匹のスペースを確保するべきです。

ニワトリからうさぎが突かれた例もあり、他の動物と飼うのは危険です。

 

運動場の柵は60cmとありますが低いです。個体差もあると思いますがうちで飼っているうさぎは70cmの柵を超えます。

また、上部の柵がないと運動場で遊ばせているときに猛禽に襲われるおそれがあるのではないでしょうか。

前述のとおり、同じ空間での複数飼いは危険。

ウサギの抱き方

ウサギは怖がりである。人に抱かれているウサギが不安を感じると、急に鋭いつめで引っかいたり、後ろ足で人を蹴るなどすることがある。

この時、ウサギをはなすと地面に落ちて骨折することもある。高い所から落とすと背骨の骨折など生死にかかわる可能性もある。

そのため、座って抱くようにする。

なお、持ち方はそっと首から肩にかけた背中の皮を大づかみし、片方の手で尻を支える。慣れたウサギであれば、わきから胸を抱いてもう一方の手で尻を支え、自分の胸にしっかりと抱く。

うさぎは基本抱っこが嫌いです。抱っこをさせない個体も多いのです。また、上記の抱っこの仕方も初めてみました。飼育本や動画を見てもこのようなやり方を目にしたことがありません。

エ サ

給食の残りや野草でまかなっていることが多く見られるが、量の不足や栄養の偏りが見られるので、市販のウサギ用飼料を与えるようにするとよい。補助食として野菜(ニンジン、キャベツ、白菜、イモ類、カボチャ、小松菜、パセリ、タンポポ、クローバー、干草など)を与える。

 うさぎの主食は牧草、補助としてペレット(一日体重の4~5%の量に制限)というのが主流でしょう。イモ類、カボチャなどは不適切と書かれたものをよく目にします。野草は農薬や犬猫の糞尿がついていないものである必要があります。給食の残りなどもっての他でしょう。

エサは、毎日新しいものと取り替える。ウサギ用飼料がない場合は煮干しも与える。

煮干しを与えるというのは初耳です。飼育の本やインターネットでも見たことがありません。常識で考えてみても草食動物に与えるものではないでしょう。

なお、ネギ類、ショウガ類など刺激の強いものは与えてはいけない。

1回のエサの量は、1羽につきウサギ用飼料100g、野菜は容器に山盛り一杯で、朝夕2回、大体1時間で食べ終わる量を目安とする。

うさぎ用飼料は体重に依るものでしょう。

水は、市販の給水器を使うとこぼれる心配がないが、飲み方がわからないウサギもいるので飲んでいるかを確認する。飲んでいない場合は、のどが乾いている時に給水器の先をウサギの口に近づけることで飲み方を覚えさせる。その際、給水器から水が出ることを確認する。

 

3 繁 殖

ウサギは繁殖性が高いため、飼育頭数をむやみに増やさず、適正に数をコントロールすることが大切である。

学校で繁殖させてその後どうするつもりでしょうか。

学校での無責任な繁殖で命が粗末にされている事件はあとを絶ちません。

また、適正に数をコントロールは不可能でしょう。

無責任な記述です。

そのためには、普段は雄と雌は別々にしておいたり、動物病院で去勢手術をしたりする方法が考えられる。

以下、􀀀交尾、􀀀妊娠中の世話、􀀀出産、􀀀出産後の世話 と説明が続くが略。

「普段は」ということは一緒にすることもあると読み取れます。一緒にすればすぐに妊娠します。

妊娠中の世話から出産後の世話まで学校で到底これらのことが責任をもってできるとは考えられません。

46~47p

4 増え過ぎの防止

子どもたちが飼育動物をかわいがり、熱心に飼育すると、生き物の誕生に出会う機会も多くなり、感動的なドラマが展開する。しかし、増え過ぎるために起こる問題も多い。

例えば、動物の数が増え過ぎ、飼育に困って処分せざるを得なくなったとか、狭い飼育舎の中に20羽以上のウサギが詰め込まれていたとか、増え過ぎて死んだ動物が床の上に散乱しているなどの問題も指摘されている。

上記のようなことが学校で行われているのがわかっていながら根本原因を考えない姿勢に驚かされます。

ウサギやハツカネズミ、ハムスターなどは、自然にまかせていると急増することがある。例えばウサギは去勢手術をしなければ1ヵ月の妊娠期間で5~6羽の子ウサギが生まれ、その子ウサギが生後5ヵ月で母親と同様に出産を始め、また5ヵ月後には孫ウサギを出産するという。ハツカネズミにいたっては、生後6~7週間ぐらいで出産可能になり、1匹の雌が年間100匹以上も産む。ハムスターは、1年中発情期が続き、生後10週間ぐらいで繁殖適齢期になり、平均8匹程度の子どもを産む。

当然、このようなことから、放置すると増え過ぎて飼育に困る事態が確実に生じる。

「飼育に困る事態」などというものではありません。「虐待が起こる事態」です。

大切なことは増え過ぎないような事前の対策を講じることである。繁殖させることを指導計画上に位置づける場合は、増えた動物の飼育についても計画をあらかじめ立てておくことが必要である。また、通常は雌雄を別に分けるか去勢・避妊手術を行う。万が一増え過ぎてしまったときには、各学校が情報を交換して、飼育に余裕のある学校に分けたり、里親制度を設けたりして、他の場所で飼育してもらうこと等が考えられる。

「通常は雌雄を分ける」とありますがこれでは一緒にすることもあると読み取れます。食事代も出さない学校がある中、去勢や避妊手術の費用が出せるのでしょうか。里親制度を設けても必ず引き取り手がみつかるとは限らないでしょう。

動物飼育をとおして地域の学校が情報を交換し合い、子どもたち同士が交流できるようにすることも望ましい。

4 かかりやすい病気と対処の仕方

やせて元気がなくなる、物音がしても反応が鈍い、せきをしたり苦しそうに鼻汁を出す。このようなときには病気の疑いが高い。

肛門付近が汚れている場合は下痢をしていることが多い。また、毛皮が汚れていたり固まっている場合は外傷の可能性がある。耳の内部がただれたり、かさぶたができたりしている場合はダニが付いていることがある。

いずれの場合でも症状をよく観察し、獣医師に相談したり治療したりする。また、こうした症状が観察されたり病気にかかったりしたウサギは、他の健康なウサギと一緒にしないようにする。また、一度病気が出た飼育箱(舎)は消毒をする。

 病気と診断され、お薬や特別な対応を獣医さんから指示された場合、だれが対応するのでしょうか。先生方や児童にそのような時間がとれますか。

 ある獣医さんが書いておられたエピソードです。記憶で書いていますので正確な言葉ではありませんが・・・。

 ある小学校の先生が病気のうさぎを連れてきたそうです。獣医さんはお薬を処方して「毎日あげてください。」といったところ、その先生は「休日は無理です」と返事したそうです。獣医さんが「病気に休日はありません」といったところ、その先生はパッタリ来なくなったとのことでした。

3 飼育動物の病気とその対策

ウサギの病気

①毛球症

ウサギは嘔吐ができないので、胃の中に毛球がたまることがある。

②歯の伸び過ぎ(不正咬合)

前歯と奥歯の噛み合わせが悪くなると、エサをとることが出来なくなるので、獣医師に相談する。

③皮膚糸状菌症

カビによって、頭、耳、足、指の付け根の皮膚にフケがでたり毛が抜けたりするので、獣医師の治療を受ける。動物を別の場所に移して、飼育舎を塩素系漂白剤を薄めたもので消毒する。

④耳のよごれ

ダニが耳に寄生して、耳に黒い耳垢(耳あか)が多量にたまって赤くただれてくるので、耳の中をよく観察する。複数飼育の場合は、感染したウサギが完全に治るまで別にしておく。

獣医師による適切な治療で簡単に治る。

⑤スナッフル症

鼻水、くしゃみなどのカゼの症状が起こり、首を傾けたりすることもある。湿度が高いと細菌感染を起こしやすいので、飼育舎は常に乾燥と清潔を保ち、風通しのよい場所で飼育する。

⑥下痢(コクシジウム症)

コクシジウムが寄生して下痢を起こす。すべてのウサギのふんを獣医師に依頼して検査をする。適切な治療により確実に治る。

⑦鼓腸症(腹部が膨らむ)

腸内ガスが発生し、お腹が膨らむ。腐敗したエサを与えたり、エサの種類を急に変えたりすることが発症につながるので、繊維質の多い物を常に与える。エサを変える場合は少しずつ混ぜながら慣らしていく。

⑧ケ ガ

けんかなどによる小さな傷から細菌が入り込み、皮下に膿がたまって腫れ上がることがある。

雄は複数で飼育するとけんかをするので、去勢手術を行うか、単独で飼育する。傷を見つけたらヨウ素系消毒剤などで手当てをする。

⑨下半身麻痺

抱いている人が落下させたり、無理に抱こうとしてウサギが暴れたりした時、背骨が折れることがある。後足が麻痺し、排尿や排便ができなくなる。

正しく抱くようにする。また、歩き方に異常が見られたら早めに獣医師に診察してもらう。


74p

第4章 動物飼育の活動例

奈緒子からの手紙

ある日、私(教師)の所に1通の手紙が届きました。

・・・略・・・

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先生、お久しぶりです。お元気におすごしでしょうか。

今回、私がこの手紙を先生にさしあげたのは、以前学校で重傷を負ったウサギの「ビジン」について報告しようと思ったからです。

ビジンが重傷を負ったのは、確か私が5年生の時の11月頃でした。傷を負ってしまったのは、ウサギ小屋に入れてあったブロックを仲間が片づけていたとき、誤ってビジンの体の上に落としたからでした。「あっ」と思った時には、もう間に合いませんでした。

その後、私が近くの病院に連れていきましたが「手術をしても無理。長生きもできない。」

というようなことをいわれたのを覚えています。

他のウサギといっしょに過ごすのは無理であろうと判断し、残りわずかな命ならとわが家に引き取りました。それからしばらくして、また学校で飼ってみようと思い、連れていったのですが、ビジンには学校での生活が無理でした。そして、再び、わが家へビジンはもどってきたのです。

ビジンは、下半身の神経、骨などがだめになってしまっていたため、排泄をすることが不自由でした。大の方は押し出されるようですが、小の方は1日に2、3回、私たちの手で膀胱をトイレで押して出してやるといった感じでした。

そのようなことがもう2年半続きました。

・・・略・・・

そして、きょう(9月4日)の朝、私は母からビジンがこの世を去ったことを聞きました。

・・・略・・・

**************************************************************************************************便箋がところどころ濡れたあとがありました。書いている途中にも奈緒子は泣いていたのでしょう。私には奈緒子の悲しみがよくわかりました。けれども、私は、奈緒子がここまでビジンの面倒を見てきたことに驚きと感動を隠せませんでした。

普通、ウサギがかわいいというのは、自分が世話すればそれに応えてくれるからだと思います。

エサを持ってくれば近寄ってくるし、その食べ方は見ていて飽きない。「自分が育てている」という感じがするからです。

・・・略・・・

けれども、奈緒子の場合は少し違うように感じるのです。ウサギの「ビジン」は下半身が不自由になっていました。奈緒子がエサをあげたりしても、今は「かわいさ」というしぐさで応えてはくれないのです。奈緒子は、そんなことにはおかまいなくビジンに愛情を注ぎます。家に持ち帰り、排泄物の世話までしているのです。それも2年半という長い間。

奈緒子のビジンへのかかわりは「無私の愛」ではないでしょうか。見返りを望まない、相手につくしてつくして尽くしきるという愛です。

考えてもみてください。2年半という長い間、排泄物の世話から、エサの世話、小屋の掃除など言葉にいい表わせない大変さがあったにちがいありません。

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もはや見捨てられそうになったウサギへの愛と献身を奈緒子は実践しました。「すごいなあ」と私は思いました。

・・・略・・・

 

 奈緒子さんやそのご家族が素晴らしい行いをしたことは誰がみても明らかです。しかし、「文部科学省委嘱研究『学校における望ましい動物飼育のあり方』」として取り上げる事柄としてこれだけでよいのでしょうか。学校として教師として重たい課題があるように思いますが一言も触れられていません。

また、怪我をしたうさぎさんを病院に連れて行ったのは奈緒子さんのようです。そこにも問題を感じます。

①誤ってうさぎに重傷を負わせた児童の心のケア

 この児童は一生の心の傷を持ってしまったことでしょう。教師はどのようなケアをしたのでしょうか。それともしなかったのでしょうか。

②上記事件が起こった学校・教師の監督責任と今後の対応

 まず、学校側の責任について何も触れられていないことに違和感を感じました。また、この事から教師が学ぶことはあるはずです。例えば飼育小屋の作業をする際はうさぎを安全な場所に退避させて行う指導をする。重たいものを扱う作業は教師のいるところで行わせる、または教師が行うなど。

③介護が必要になったうさぎに対する学校の対応

 結局、学校のうさぎなのに介護が必要になったら学校は手放すことしかできないということです。私はここに問題を感じます。

 また、奈緒子さんが引き取ることになったとき、奈緒子さん以外の飼育委員、うさぎに怪我を負わせてしまった児童はどう思ったのでしょう。

 一般的には飼い主が飼っている動物に介護が必要になったからという理由で手放すことは非難されることですよね。

 筆者であるこの先生がどのようなお立場(飼育担当だったのか、奈緒子さんの担任だったのか)かわかりませんが、学校側の責任者の一人であることに変わりはありません。責任者のおひとりとしてそのあたりの考察がないのが残念です。

 「もはや見捨てられそうになったウサギへの愛と献身を奈緒子は実践しました。」とかかれていますが、見捨てたのは、「手術をしても無理。長生きもできない。」と判断した獣医さんではなく学校ですね。

④本来児童に学んでもらいたいこととは?

 この先生は「普通、ウサギがかわいいというのは、自分が世話すればそれに応えてくれるからだと思います。」と書き、奈緒子さんの場合はそれとは違うと書いています。そして奈緒子さんを褒めたたえていますがここにも違和感をかんじるのです。奈緒子さんは立派ですが本来動物を飼う人はそのようでなければなりません。もし、動物の飼育を通して教育をするのであれば「普通、ウサギがかわいい・・・」のレベルではなく奈緒子さんのレベルを目指すのが筋ではないでしょうか。しかし皮肉なことに教える側の学校・教師が児童とその家族に教えられているのです。